業界盆栽やろう 編集部

日本の盆栽輸出先No.1はベトナムだった — cây cảnh文化が生む東南アジア需要と世界市場の今

ジェトロの調査によれば、ある時期の対ベトナム輸出額が輸出総額の最大シェアを占めた。数百年続く観賞樹木文化「cây cảnh」と旧正月(テト)需要を持つ東南アジア市場の背景と、世界市場8,300億円の現在地をお届けします。

風に揺れる椰子の木と曇り空 — 日本の盆栽輸出の主要市場である東南アジア・ベトナムの風景を連想させる
ベトナムをはじめとする東南アジアは、日本の盆栽輸出において欧米と並ぶ重要市場。背景にはcây cảnh(観賞樹文化)と旧正月・テトの縁起需要がある

「日本から最も多くの盆栽が輸出されている国はどこか」と問われれば、多くの愛好家は欧米を思い浮かべるでしょう。ヨーロッパや北アメリカでの盆栽ブームは国内でもしばしば報道されます。しかしジェトロ(日本貿易振興機構)が2014年に発表した輸出可能性調査が示すのは、意外にも東南アジアのベトナムです。日本の「盆栽」がなぜベトナムに向かうのか——その背景には数百年前にさかのぼる観賞樹木文化と、現代の経済成長が交差する構図があります。

日本の盆栽輸出先1位はベトナム — 数字が示す意外な事実

農林水産省の統計によれば、日本の盆栽・植木類の輸出額はこの20年で急拡大しました。2001年には約6億円程度だった輸出額が2006年には23億円、2013年には約94億円に達しています。伸長の背景にはアジアの経済成長があります。そしてジェトロが実施した現地調査では、ある時期の輸出額でベトナムが最大の仕向け国となっていました。香川県高松を中心とする国内産地から出荷される盆栽の多くが、ベトナムの富裕層市場に向かっています。ジェトロの調査報告書では「ベトナム向け盆栽類の輸出可能性」として専用レポートが作成されており、現地バイヤー・輸入業者へのインタビューが収録されています。

数百年続く「cây cảnh」文化 — ベトナム版観賞樹木の世界

ベトナムの観賞樹木文化は「cây cảnh(カイ・カン)」と呼ばれ、その歴史は14〜15世紀にさかのぼると言われています。中国から伝わった盆景(penjing)の影響を受けつつも、独自の美意識を持つ庭木・鉢植え文化として発展しました。日本の盆栽と異なる点は、かなり大型の樹木(高さ数十cmから1mを超えるものも)を好む傾向があり、長年の自然樹形を評価する流儀も根強いことです。しかし、日本盆栽が「本物の伝統と精巧さの証明」として認知されるようになると、ベトナムの富裕層は国内のcây cảnh作品よりも日本産を好む傾向を見せはじめました。ジェトロの現地インタビューでも「日本の技術・品質ブランドへの信頼」が購買動機として繰り返し挙げられています。

テトが動かす需要 — お正月に松盆栽を飾るベトナムの富裕層

ベトナム最大の祝祭「テト(旧正月)」は1月下旬〜2月上旬(旧暦の正月)に訪れます。この時期、富裕層の家庭や企業のエントランスには縁起物の植物を飾る風習が広く浸透しています。なかでも松の盆栽は「長寿・繁栄・不変の意志」を象徴する縁起物として重宝されており、高松産の黒松・五葉松がテト向けの贈答品として流通しています。テト前の数週間が年間最大の商戦期であり、現地バイヤーが日本の産地を直接訪れて先買いするケースも珍しくないと言われます。日本の盆栽産地が輸出の季節性に合わせた生産計画を立て始めた背景の一つがこの需要構造です。

床の間に飾られた古木五葉松の大型盆栽 — テトの縁起物として求められる日本産松盆栽の典型的なスタイル

豆知識 — ハノイに存在する「盆栽通り」

ハノイ旧市街の北側に位置するホアン・ホア・タム(Hoang Hoa Tham)通りは、「ハノイの盆栽通り」として現地愛好家の間に知られています。植木・観賞樹を専門とする店舗が軒を連ね、訪問者はcây cảnhの大型作品から小品盆栽まで幅広い商品を目にすることができます。日本から輸入された高級品と、ベトナム国内で育てられた在来種が同じ棚に並ぶこともあり、現地の愛好家が見比べて購入しています。こうした専門商店街の存在がベトナムにおける観賞樹文化の厚みを物語っています。

アジア・EU・米国 — 3つの輸出市場の戦略的な違い

日本の盆栽輸出は大きく3つの市場に向けられています。第一は東南アジア(ベトナムを中心にタイ・台湾・中国)。文化的な親和性と経済成長が相まって数量面では最大の市場です。第二は欧州市場(ドイツ・オランダ・イタリアを中心に30か国以上)。個人愛好家の裾野が広く、価格より文化的価値・ストーリーを重視する傾向があります。第三は北米(米国)。コレクター層が厚く、展示会経由の高額取引が多い市場です。この3市場で際立って異なるのは、求める「盆栽のサイズ」と「購買のタイミング」です。東南アジアでは大型・ボリューム感のある樹が好まれ、テトや祝祭に向けた季節需要があります。欧州では小〜中型の作品が好まれ、展示会シーズンに合わせた在庫調整が重要です。米国では大型の名木への一点集中傾向があり、年間を通じてコレクターとの直接取引が行われています。

世界市場8,300億円の内実 — 2034年に向けた成長シナリオ

市場調査会社モルドー・インテリジェンスの試算では、世界の盆栽市場規模は約83億ドル(約8,300億円、1ドル≒100円換算)に達するとされています。2024〜2034年の年平均成長率(CAGR)は約5.2%と予測されており、2034年には130〜140億ドル規模に拡大する見通しです。成長の主要因は3つ——アジア富裕層の拡大、マインドフルネスブームによる欧米での趣味人口増加、そしてSNS(特にInstagram・YouTube・TikTok)を通じた盆栽コンテンツのバイラル拡散です。日本の輸出産地にとって追い風は「本物の産地ブランド」としての信頼性です。同様の観賞樹文化を持つ中国・韓国と比較したとき、「日本の盆栽」という括りのブランド価値は際立って高く、その証拠がベトナム市場でcây cảnh在来品よりも高値で取引される日本産盆栽の現状です。

まとめ

「日本の盆栽輸出先No.1はベトナム」という事実の裏側には、数百年の観賞樹文化と旧正月(テト)需要が重なる東南アジア市場の厚みがありました。松盆栽をテトの縁起物として飾るハノイの富裕層の姿は、日本の愛好家が国内の棚場で向き合う「松」と同じ一本の木が、海を越えて別の文化的文脈で生きている姿でもあります。世界市場の成長とアジアでの根強い需要は、国内産地の生産者にとっても、盆栽を楽しむ愛好家にとっても、この伝統の裾野の広さを改めて示しています。盆栽の樹種ガイドや管理カレンダーは「盆栽やろう」の[ガイドページ](/guide/)から、全国の展示会・盆栽園は[イベント](/events/)と[施設マップ](/map/)からどうぞ。

出典

  1. [1]ジェトロ「ベトナム向け盆栽類の輸出可能性調査」2014年3月
  2. [2]農水省FAQ「最近、海外で植木や盆栽が人気とのことですが…」
  3. [3]Bonsai Market Size, Growth Trends & Global Industry Analysis (Mordor Intelligence)
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