季節コラム盆栽やろう 編集部

もみじ盆栽の葉刈り完全ガイド — 6月に全葉を除去すると何が起きるか

盆栽のもみじや楓は6月に「葉刈り」と呼ばれる全葉除去を行うと、同じシーズンのうちに細かな枝が発達し、秋の紅葉が一段と美しくなります。一見「枯れるのでは?」と思える大胆な作業ですが、落葉樹の生理を逆手に取った伝統的な盆栽技法です。適切な時期・道具・肥料管理を初心者向けに解説します。

ヤマモミジ盆栽の樹姿 — 葉刈り作業の対象となる代表的なもみじ品種 (Acer amoenum)

盆栽のもみじや楓を見ていると、6月になると盆栽店の棚に「葉が一枚もない」木が並んでいることに気づくかもしれません。葉がまったくない状態の木を見て「枯れているのでは」と心配になる方もいるかもしれませんが、これは盆栽師が意図的に行う「葉刈り(はがり)」という作業です。一見大胆に見えるこの技法は、落葉樹の生理を巧みに利用した伝統的な盆栽技術で、同じ年のうちに細かな枝の発達と秋の美しい紅葉を目指すうえで欠かせません。本記事では、6月が「葉刈り最適月」とされる理由から手順・葉刈り後の管理まで、初心者にもわかりやすく解説します。

葉刈りとは何か — 落葉樹の「二の芽」を引き出す技法

葉刈りとは、もみじ・楓・けやき・ぶなといった落葉樹の盆栽に対して行う作業で、その年に出た葉をすべて(または選択的に)取り除く技法です。葉を除去することで、木は「葉を失った」という信号を受け取り、休眠していた腋芽(わきめ)や不定芽を一気に芽吹かせようとします。この二回目の芽吹きを「二の芽(にのめ)」と呼び、葉刈りから約2〜3週間後に出てきます。

なぜこれが盆栽に有利なのでしょうか。二の芽から生まれた葉は、一番芽(春に出た本来の葉)より一回り小さくなる性質があります。葉が小さくなることで、小さな鉢の中でも「縮尺のバランス」が整い、樹全体が引き締まって見える効果があります。また、葉が再び展開するとき、節と節の間隔(節間)が短く詰まった枝が生まれやすくなり、小枝の充実度が増すという効果もあります。

6月が「葉刈り適期」の理由

葉刈りの適期は、一般的に5月中旬〜6月上旬とされています。この時期が適している理由は、「春に出た一番芽の葉が完全に展開し、かつ木がまだ生育旺盛な初夏の時期」であるからです。日本の気候では、もみじの新葉は3〜4月に芽吹き、5月には完全に開き固まります。葉が固まりきる前(5月上旬まで)に葉刈りを行うと、まだ葉が柔らかく傷つきやすいため不向きです。逆に、梅雨後半から夏(7月以降)に行うと、暑さで木が消耗しているため二の芽が出にくくなります。「葉が完全に固まった後すぐ」の5月中旬〜6月上旬が、木の体力と気候が両立する最適の窓です。

葉刈りをする1ヶ月前から充分な施肥を行っておくことも重要なポイントです。体力のある木ほど二の芽の出がよく、葉も小さく揃いやすくなります。肥料が不足した状態で葉刈りを行うと、二の芽が出てこなかったり、出ても樹が弱ってしまう原因となります。

葉刈りに必要な道具と準備

葉刈りに使う主な道具は3つです。①葉刈り鋏(はがりばさみ): もみじの細い葉柄を切るための小型の鋏。芽切り鋏でも代用可能ですが、専用の葉刈り鋏は刃が小さく繊細な作業に向いています。②消毒液: 鋏の刃先をアルコール(消毒用エタノール)や家庭用漂白剤の希釈液で拭いてから使い始めることで、切り口からの菌の侵入を防げます。③遮光ネット: 葉刈り後は半日陰で管理するため、強い日差しを和らげるネット(30〜50%遮光)があると便利です。

葉刈りの手順 — 3ステップで理解する

ステップ1 — 全葉の除去: 葉を葉柄の真ん中あたりで切ります。葉柄を根元から切ってしまうと傷口が大きくなりやすいため、2〜3mm程度の葉柄を残して切るのが基本です。残った葉柄は、二の芽が出た頃に自然に落ちるか、軽く触れると取れるようになります。すべての葉を除去するのが「全葉刈り」で、大きな葉だけを取り除いて小さな葉を残す「葉すかし(はすかし)」という方法もあります。

ステップ2 — 剪定との組み合わせ: 葉刈り後は枝の状態が一目でわかるため、不要な枝(内向き枝・重なり枝・徒長枝)をこの機会に整理します。葉がなくなった状態で枝のバランスを見ながら、将来の樹形を想像して剪定しましょう。

ステップ3 — 施肥の再開: 葉刈り直後の1週間は肥料を控え、切り口が落ち着いてから少量の置き肥または液肥で栄養を補給します。二の芽がしっかり開いた時点で通常の施肥ペースに戻します。

ニオイカエデの鮮やかな紅葉 — もみじ盆栽の葉刈りが目指す秋の美しい色付き

葉刈り後の管理 — 肥料・水やり・置き場所

葉刈り後は、木が「葉がない状態」になるため、通常より水の消費量が少なくなります。ただし根が乾くと二の芽の出が悪くなるため、土の表面が乾いてから水を与える習慣は変わりません。置き場所は半日陰が基本で、二の芽が出るまでの1〜2週間は特に直射日光を避けることが重要です。二の芽が展開しはじめたら徐々に日光に慣らし、梅雨明け後は遮光ネット(30〜50%)下での管理に切り替えます。

肥料は葉刈り作業の1週間後から再開し、液肥を規定量の半量で与えてから1〜2週間後に通常量に戻します。二の芽が固まる7月下旬以降は、窒素分を抑えたリン・カリウム中心の肥料に切り替えると、枝が充実しやすく翌春の芽出しも良くなります。

葉刈りをしてはいけない条件

葉刈りは便利な技法ですが、すべての木に行えるわけではありません。次のケースでは葉刈りを控えましょう。①樹勢が弱い木(葉が少ない・色が薄い・枝の伸びが悪い)への葉刈りは厳禁で、さらに弱らせてしまいます。②同じ年に植え替えをした木は根のダメージが残っており、植え替えから少なくとも3〜4ヶ月は間隔を空けましょう。③黒松・五葉松・真柏など松柏類は葉刈りの対象外で、松柏類には別の方法(芽摘み・芽切り)があります。

豆知識 — 「二の芽の法則」と江戸の盆栽師たち

葉刈りという技法は、江戸時代中期に盆栽師たちが経験的に発見したとされています。もみじや楓など落葉広葉樹の盆栽が盛んだった江戸では、「葉を落とすと細かな枝が出る」という現象を利用して、より「日本の縮景」に近い樹形を目指す試みが重ねられてきました。興味深いのは、葉刈りによって出てくる「二の芽」の葉が、一般的に一の芽より葉柄が短くなる点です。葉柄が短いと葉が枝に近い位置につくため、木全体が詰まったように見え、小さな鉢の中の「縮尺感」がより際立ちます。

また、もみじや楓の二の芽は、秋の紅葉の色づきが一の芽より鮮やかになることが多いとされています。一の芽から展開した葉は夏の強光と高温にさらされてクロロフィルが分解されやすいのに対し、二の芽から出た葉は比較的新鮮な状態で秋を迎えるためと考えられています。「葉刈りをした木の紅葉は格別」と言われるゆえんです。

まとめ

もみじ・楓などの落葉樹盆栽における6月の葉刈りは、「見た目の勇気がいる作業」ですが、盆栽師が長年受け継いできた合理的な技法です。適切な時期に行い、事前の施肥・事後の管理を丁寧に行うことで、同じ年の秋に一段と美しい紅葉と充実した小枝を楽しめます。もみじ・楓・けやきなど雑木盆栽の月別作業スケジュールは「盆栽やろう」の[樹種ガイド](/guide/species/)でご確認ください。全国各地で開催される盆栽展・盆栽まつりの情報は[イベントページ](/events/)から、盆栽園・美術館は[盆栽施設マップ](/map/)で探せます。

出典

  1. [1]樹種別作業 もみじの葉刈り — 盆栽妙 本店
  2. [2]モミジ(紅葉)の葉刈り・葉すかし — キミのミニ盆栽びより
  3. [3]もみじ盆栽の育て方と1年間の管理 — 盆栽.com

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