業界盆栽やろう 編集部

日本一の松盆栽産地・高松から世界へ — EU市場での黒松ブームと錦松誕生の物語

香川県高松市の鬼無・国分寺地区は、松盆栽の全国シェア約80%を誇る日本最大の産地です。2023年の黒松EU初出荷からおよそ3年、オランダを中心に需要は広がり続けています。産地固有の奇跡の変異種・錦松誕生の物語とともに、高松盆栽の現在をお届けします。

高松産地が育てた黒松盆栽 — 鬼無・国分寺の職人技が生む松柏の名品
高松市産の黒松盆栽は全国の松盆栽生産のおよそ80%を占め、EU輸出でも注目を集める

香川県高松市に松盆栽の日本一産地がある——そう聞いて、盆栽といえば大宮盆栽村を思い浮かべる方には意外かもしれません。高松市北部に隣接する鬼無(きなし)地区と国分寺町は、松盆栽の全国シェアおよそ80%を担う生産地です。「BONSAI」として世界語になった今日、産地から出荷される黒松はEUのリビングに飾られ、アメリカへの輸出解禁も進行中です。2026年の夏、高松盆栽産地の現在地をお伝えします。

鬼無・国分寺 — 松盆栽200年の歴史

高松盆栽の起源は今から約200年前、江戸時代・文化年間(1804〜1817年)にさかのぼります。鬼無地区では近郊の山野に自生していたマツの苗を鉢に植えて販売したのが始まりといわれています。その後、1894年(明治27年)に国分寺地区の末沢喜市氏が鬼無地区の協力を得て「錦松」の接ぎ木に成功し、大量生産が可能になったことで産地は飛躍的に拡大しました。現在、両地区には約60軒の盆栽農家が集まり、全国出荷額ベースで松盆栽シェアの約8割を握ります。「大宮盆栽村が雑木や総合盆栽の産地なら、高松は松専門の産地」という棲み分けが業界内では知られています。

高松盆栽の三大品種 — 黒松・五葉松・錦松

高松産地が得意とする「三大品種」は黒松・五葉松・錦松(ニシキマツ)です。黒松(クロマツ、Pinus thunbergii)は日本産の松の中で最も力強い樹形を持つ代表種で、荒々しい幹肌と濃い緑の剛直な葉が盆栽愛好家に愛され、産地出荷量の中心を占めます。五葉松(Pinus parviflora)は白みを帯びた繊細な葉と柔和な樹形が特徴で、国風展など格調高い展示会でも賞を競う名木が高松から多数生まれています。そして三つ目が、産地ならではの固有品種「錦松(ニシキマツ)」です。

豆知識 — 錦松はなぜ高松だけに存在するのか

錦松(Pinus thunbergii 'Nishiki')は、黒松の突然変異として高松市内で自生していた木から発見された品種です。通常の黒松の樹皮は比較的滑らかですが、錦松は幹や枝の皮がコルク質で深く裂けた「亀甲割れ」の独特の模様を持ちます。この荒れた樹皮が「百戦錬磨の古木」を思わせる迫力をかもし出し、観賞価値を高めています。

「なぜこの変異が高松だけで見つかったのか」という問いに対して、明確な科学的答えはまだありません。自然界で偶発的に起きた遺伝子変異が鬼無・国分寺の気候風土の中でたまたま生き残り、1894年(明治27年)に末沢喜市氏が接ぎ木技術で安定的に増殖させることに成功したことで、「産地だけで生産できる固有品種」が生まれました。この接ぎ木成功がなければ、錦松は今も山野に散在する希少な変異木として残るだけだったでしょう。現在では高松産地の「顔」として、EU・台湾のバイヤーからも高い関心を集めています。

瀬戸内の恵み — 産地を支える気候と土壌

高松産地が松盆栽に適している理由は、その地形と気候にあります。瀬戸内海沿岸の高松は全国屈指の晴れ地域として知られ、年間降水量が少なく温暖です。また花崗岩が風化した水はけのよい砂壌土が広がっており、過湿を嫌う松盆栽の生育に理想的な環境を提供しています。根腐れしにくい乾いた土地で育った松は根が充実し、枝先まで力の行き渡った樹形になります。雨の多い太平洋側や日本海側の産地とは異なる「晴れの国・讃岐」ならではの環境が、高松盆栽の品質を支える根幹です。

五葉松の盆栽 — 高松産地三大品種のひとつで国風展にも名品を輩出する白葉の松柏

EU輸出3年目の現場 — オランダで黒松ブーム

高松産地にとって大きな転機となったのが、2020年10月のEU向け黒松盆栽の輸出解禁です。それまでEUは「松材線虫病(マツ枯れ)」の拡散防止を理由に日本の松盆栽輸入を禁止していましたが、香川県農業試験場の研究によって高松産の黒松に病害虫の懸念がないことが確認され、防除技術も確立されたことで規制が見直されました。

解禁後、産地は2年間の植物防疫所への登録と栽培管理を経て、2023年1月にEUへの初出荷を実現しました。最初のコンテナには黒松を含む五葉松・真柏など計約500本が積み込まれ、スペインとオランダのバイヤーが商談を成立させました。その後、オランダで販売が開始された黒松531鉢のうち4か月間で半数が売れるという好調ぶりを見せ、ジェトロの取材でも「オランダで黒松ブームが起きている」と紹介されました。EU市場では高さ50センチ前後・国内価格1〜2万円台の「持ちやすいサイズ」が特に人気で、盆栽初心者でも飾りやすい小品への需要が高まっています。

次の目標 — アメリカへの輸出解禁の行方

EU市場の手応えを背景に、業界が今最も注目するのが米国市場への輸出解禁です。2024年6月、日本政府は農林水産物・食品輸出実行計画を改定し、黒松盆栽の米国輸出解禁を「速やかに要請する優先品目」として初めて明記しました。これは香川県と埼玉県が連携して国に要請を続けた成果でもあります。米国市場では日本国内価格1〜2万円台の黒松が10万円超で取引される可能性があるとされ、業界関係者は年間500本の輸出を当初目標として描いています。2026年現在、日米間の植物検疫交渉は継続中とみられており、解禁が実現すれば高松産地に次の飛躍の機会が訪れます。

まとめ

香川・高松の鬼無・国分寺地区は、約200年の歴史と全国シェア80%の実績を持つ日本最大の松盆栽産地です。突然変異から生まれた固有品種「錦松」、EU輸出でオランダに広がった黒松ブーム、そして米国市場を見据えた展望——高松産地の物語は、「小さな鉢の中の芸術が世界へ羽ばたく」大きな物語ともつながっています。全国の盆栽園・盆栽美術館の場所は「盆栽やろう」の[盆栽施設マップ](/map/)から検索できます。黒松・五葉松などの松盆栽の育て方は[樹種ガイド](/guide/species/)で、全国の盆栽展示会・即売会の情報は[イベントページ](/events/)からご確認ください。

出典

  1. [1]黒松盆栽、EUへ初出荷 高松 輸出解禁、500本積み込み — 盆栽BONSAI (四国新聞系)2023
  2. [2]EUに続き高需要のアメリカへの輸出解禁へ…日本一の「黒松盆栽」生産地・高松市で高まる期待感 — OHK 岡山放送2024
  3. [3]オランダで黒松が大ブーム!? 盆栽から新たなステージへ — ジェトロ Global Eye2024

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